第四五回朔太郎忌
「『月に吠える』刊行百年 どこがヤバイの? 朔太郎」
      5月14日(日)前橋テルサホール
                         伊藤信一

 

 今年の朔太郎忌は、第一部が「『月に吠える』とは何だったのか―日本詩歌の百年」と題したシンポジウム、第二部が「『月に吠える』を声で立ち上がらせる」リーディングシアターの、二部構成で開催された。会場のテルサホールは五百円の当日券が完売、入場できなかった人もいたという大盛況。
 第一部は、小説家の高橋源一郎氏、歌人の穂村弘氏の二人を迎えて、朔太郎研究会会長で詩人、小説家の松浦寿輝氏の進行で始まった。
 高橋氏は、『月に吠える』の特異なオノマトペや、初版時に検閲により削除された「恋を恋する人」などから浮かび上がる、聞き耳をたて、世界から言葉を拾い、他人に触られる朔太郎の受動性に、『青猫』につながる表現の可能性を感じ、読み返してその点にひかれた、小説家と異なり詩人は新しい形式を発見する人で、特に朔太郎は一回一回冒険している、などと語った。
 穂村氏は、短歌や文語定型詩は作品の外側にスタイルがあるが、朔太郎が確立したとされる口語自由詩は、スタイルが作品の内部にあり、魂と言葉が直結している、あらかじめスタイルがあるということを否定したのが朔太郎の新しさではないか、口語か文語かは本質的ではなく、『氷島』も文語を『月に吠える』より増やしただけなのではないか、などと発言した。
 松浦氏は二人の話を受け、朔太郎は小説も書き、短歌のアンソロジーを編み、評論も書いた全体的な文人だった、詩は一編ごとに暗闇に向かっての跳躍であるが、『月に吠える』の中に同じような詩がないのがすごい、勇気づけてくれる天才的詩人で、読むたびに新しい魅力が発見できる、としめくくった。
 第二部は、朔太郎の孫で前橋文学館館長萩原朔美氏と俳優、ナレーターによる朗読劇。現代の高校生が授業での発表のために『月に吠える』について調べる中で朔太郎にひかれていくというストーリーと、朔太郎、犀星、自秋、の書簡朗読、『月に吠える』からの作品朗読が組み合わせられた、意欲的なプログラムであった。
 著名な三人の文学者の組み合わせへの期待もあってか、文学イベントとしては希有な約五百名の聴衆の中、熱気に満ちた二時間半だった。

(会報301号より)

 


『月に吠える』刊行100年


第45回 朔太郎忌
    どこがヤバイの?朔太郎

 

日 時 5月14日(日)13:30開場 14:00開演
場 所 前橋テルサホール
入場料 500円


第1部【シンポジウム】
   松浦寿輝氏(朔太郎研究会会長、詩人、小説家、批評家)
   穂村 弘氏(歌人、詩人、批評家、翻訳家)
   高橋源一郎氏(小説家、文学者、文芸評論家)

 

第2部【朗読】
   『月に吠える』朗読
     監修・演出 萩原朔美前橋文学館館長

 

お問合せ 第44回朔太郎忌実行委員会
     (萩原朔太郎記念・木と緑と詩のまち前橋文学館内)

     電話 027―235―8011

 

以下は昨年までの内容です。

 

第44回朔太郎忌「詩から音楽へ」   寺内 拓


 今年が生誕130年に当たる節目の第44回朔太郎忌が、5月14日に開かれた。今回は「詩から音楽へ」というテーマで、第一部がシンポジウム、パネリストに作曲家の西村朗氏と西田直嗣氏、司会は朔太郎研究会会長の三浦
雅士氏が担当した。
 第二部はコンサートで、その一が西田氏作曲の朔太郎の五つの詩、その二は西村氏作曲の猫町、その三は西田氏作曲の連歌「蛇苺」、最後に西村氏作曲による「青猫」の五つの詩という多彩なプログラムであった。
 会場はベイシア小ホール、第二部のコンサート辺りから座席はほぼ満席になり立ち見が出るほどであった。私の興味を引いたのは西村氏作曲の散文詩猫町であった。猫役が8人出て猫声を発し、ビアニストまで尻尾をつ
けおぎやあ、おわああ、と鳴くのである。
 「一種狂気的ですけど、コミカルでもあるんですよね」と作曲した西村朗氏は云う。
 天国の朔太郎さんが見ていたなら、思わず微笑むのではないだろうかと私は思う。
 詩と音楽について、三浦雅士氏はこう云う「現代詩という言語作品の性格の問題があるにしろ、詩人と作曲家の関係が戦後になって疎遠になった印象がある。詩人はもっと作曲家の仕事に関心を持ってほしい」と。
 まさにその通りで、我々詩を書く人間はもっと音楽に対して向き合わなければならない。そして年々充実し想像を高めていく朔太郎忌来年のテーマは何か、大いに期待したい。

(会報297号より)

 


第44回朔太郎忌

 詩から音楽へ  -コンサート&シンポジウムー

 

日 時 2016年5月14日(土)午後2時開演

場 所 ベイシア文化ホール(群馬県民会館)小ホール

入場料 500円

 

【コンサート】
 ・西村朗作曲「猫町」、「青猫」の五つの詩
 ・西田直嗣作曲 連歌「蛇苺」、混声合唱組曲「変身物語」
【シンポジウム】
 「MetamOrphose詩から音楽へ」
    パネリスト/西村 朗(作曲家)
          西田直嗣(作曲家)
    司会/三浦雅士(文芸評論家)

 

お問合せ 第44回朔太郎忌実行委員会
     (萩原朔太郎記念・木と緑と詩のまち前橋文学館内)

     電話 027―235―8011

 


第四三回朔太郎忌 「いまこそ、朔太郎」の開催
  ――言語の資質を問う――
                            斉藤守弘


 二〇一五年五月十日(日)、前橋市民文化会館にて、第四三回朔太郎忌「いまこそ、朔太郎」が開催された。主催は萩原朔太郎研究会/水と緑と詩のまち前橋文学館による。開催に先だち、前橋コンベンション協会理事長、前橋市長、同教育長、市議会議長、そして遺族の萩原朔美氏の紹介と挨拶が行われた。
 萩原朔太郎研究会会長の三浦雅士氏による開催の辞では主に、朔太郎が日本に初めて近代詩をもたらせたことにふれ、前橋市としてもその存在の郷土の誇りを強くうちだすことが望ましいこと。さらに、市と市民が近代詩の歴史と文学を強く結びつけることが世界的にも重要ではないか。詩を書きはじめる人にとってもその文学観は重要であろう、と述べられた。
 つづいて群馬県立前橋高校ギター・マンドリンクラブの演奏、前橋文学館友の会の合唱、そして詩作品の朗読。前橋在住の関根美紅(みく)さん、来実(くるみ)さん姉妹による詩「こころ」、東京都在住の山野瞳さんの詩「およぐひと」が行われた。
 講演は詩人、蜂飼耳氏による「朔太郎の詩と情熱」の題で話をなされた。
 講演の内容はまず、前橋駅周辺にみるように朔太郎のアピールは地味であるが、朔太郎の詩作品は郷土、ふるさとを大事にした印象が強い、この対比のこと。詩への情熱が強いあまリビアホールに原稿を持ち入り紛失してしまったこと。室生犀星との繋がり。島崎藤村、山村暮鳥、『詩の原理』などのことを通してみると、朔太郎は自分の立場と趣の違った文学者を丁寧にとりあげた。それは詩の読み方の楽しさを語ることである、と話された。
 対話・谷川俊太郎/三浦雅士(聞き手)による「いまこそ、朔太郎」での話題は闊達な気風の中での両氏の詩論の応酬であったが、内容は個々の主題に分けて整理されておられた。萩原朔太郎と谷川俊太郎との詩の共通点について。口語詩の開発、知性と無意識のこと、言語で語れない部分と言葉を越える領域、言語以前の世界の危うさや輝きと存在、さらに意味について、宇宙の無の意味と言葉などについて言及し、朔太郎の詩人的人格は感情を超越した詩の探求にあったことを述べられた。
 今回の朔太郎忌は、「いまこそ、」の標題が参加者各位の頭中に降り注ぐものとなった。もとよりその題は行政の部分とは別に、各位それぞれの内面のテーマであり、教えかつ教えられるものではないと思う。けれども、蜂飼氏が『月に吠える』の中の詩「くさった蛤」の初印象の気味の悪さから、のちに言語美を見い出したと語り、また谷川氏が言葉あってこそ「宇宙」の意味が生ずると語ったように、いまこそ、は言語の触手の資質を自らに問うという教示は存在したのではないだろうか。

(会報292号より)


第43回朔太郎忌

 いまこそ、朔太郎

 

◇とき 2015年5月10日(日)13時~17時(開場12時

◇会場 前橋市民文化会館 大ホール

◇定員 1200人(入場無料)

◇内容

 ◆講演

  「萩原朔太郎の詩と情熱」

      蜂飼 耳 (詩人)

 ◆対話

 「いまこそ、朔太郎」

     谷川俊太郎(詩人)

    (聞き手)三浦雅士(文芸評論家)

 ◆演奏 群馬県立前橋高等学校

       ギター・マンドリン部

 ◆合唱 前橋文学館友の会・楽しく歌う会

 ◆朔太郎詩朗読 

 

※詳しくは前橋文学館へお問い合わせください。

前橋市千代田町三丁目12―10

電話 027―235―8011


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第四十二回朔太郎忌
 朔太郎ルネサンス in 前橋   新井啓子


 萩原朔太郎の命日である5月11日(日)、前橋テルサにて第四十二回朔太郎忌が催された。翌日の新聞発表では参加者300人という大盛況で、長い一日となった。まず群馬マンドリンクラブによる演奏、前橋文学館友の会「楽しく歌う会」による朔太郎に因んだ楽曲のコーラスで幕開け。次に群馬詩人クラブ会長平野秀哉氏と友の会会員による朔太郎詩の朗読。これらは例年の出し物であるが、今年の広い会場でもよく音が響き、もの悲しくもゆったりしたマンドリンの音色や声に多くの人が聞き入った。
 一人目のゲストは芥川賞作家であり詩人であり、女優でありミュージシャンであり、若くして多彩な才能を惜しみなく発揮している川上末映子氏。三浦雅士朔太郎研究会会長との対話では、軽妙な語り口で夭折の中原中也と遅咲きの朔太郎を対比。言葉の繰り返しにうっとりする中也と、決死の緊張感や理性が勝って夢を見ない朔太郎という二人の詩人のイメージを語った。また、小説と比べて「詩は作者にも永遠にわからない謎を持つもの」と三浦氏が投げかけると、「詩はただ自由に書くだけではなく、緊張感が必要」と説いた。
 もう一人のゲスト、詩人の吉増剛造氏は、三浦氏と朔太郎の写真や声について対話し自作の映像を披露した。吉増氏は朔太郎が生きた場所である前橋・下北沢・鎌倉・伊香保・国定など、自らそこへ出向きそこで朔太郎にまつわる映像を撮っている。今回の映像は、前橋の街をタクシーで移動し、利根川に降り立った時のものである。時代を超えた場の再生が、薄いフィルムに転写された朔太郎の像を通してあわあわと映し出された。細い筋のような木々、押し寄せる川の流れ、フィルムが揺れるたびに一緒に揺れて音をたてる、鈴の音が印象に残った。
 閉会後懇親会までは、生家や文学館を巡る朗読風景ツアーが企画され、わずかな時間ながら朔太郎の気配を味わう計らいとなった。
 続く懇親会では出席者はみな青猫のマスクをつけ、会場は猫町と化す。老若男女、東北からも関西からも会報の記載を見た会員が駆けつけマジックなどを楽しんだ。研究者・詩人に限らず、詩や朔太郎や前橋に関心のある人たちが集まったのだろう。「忌」ではなく、「まつり」であってほしいという故萩原葉子氏の言葉を思い出した。
 今年は朔太郎研究会発足5 0周年の記念の年である。会長就任の三浦氏を始め、研究会や朔太郎忌をバックアップする体制が一新した。50年の歴史の上に、新たな精神や構想が組み立てられ、さらなる活動の原動力となることが望まれる。「前橋は言葉と出会う街」と、萩原朔美氏は常々話し、「言葉の(世界)の人たちが(時代の)遣先案内人になる」と三浦氏も熱弁をふるう。詩や朔太郎への熱い思いとうねりを感じた今年の朔太郎忌。来年も期待したい。

(会報287号より)

 

 

第42回朔太郎忌

 朔太郎ルネサンスin前橋

 

◇とき 平成26年5月11日(日)13時〜17時
◇会場 前席テルサ
    (群馬県前橋市千代田町二丁目5ー1)
◇定員 180名(入場無料)
    (定員を超えた場合には立見をお願いすることもあります)
◇内容
 ◆対話
   萩原朔太郎の誘惑=川上未映子(聞き手 三浦雅士)
 ◆映像と対話
   朔太郎を見る/朔太郎を聴く=吉増剛造(聞き手 三浦雅士)
 ◆演奏
   群馬マンドリン楽団
   前席文学館友の会「楽しく歌う会」
 ◆朗読
   群馬詩人クラブ、前橋文学館友の会
◇懇親会
 当日、1 8時より懇親会を行います。
 ◆会費3000円
   (当日、受付にてお支払いください)

 

※懇親会に参加希望の方は、葉書に住所・氏名・連絡先を明記の上、前橋文学館までお申し

 込みください。(4月15日(火)必着)

 

※詳しくは、前橋文学館へお問い合わせください。
                   前橋市千代田町三丁目12-1 0
                   電話 027-235-8011

 

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